第6話 ボギンス帰宅
ボギンスは、ダンジョン庁舎の前で当直勤務者2名と副官に見送られていた。
「お疲れ様でした!敬礼!」
「ああ、ご苦労さん。当直勤務頼むな」
「はい!」
馬車に乗り込む前に当直にそう言い、返事を聞いてから魔王国の敬礼(帽子のつばをしっかり右手で掴む所作)を返した。ボギンスが馬車に乗り込むと運転手が掛け声をかけ、走り出す。ボギンスは当直たちを横目で見ながら、少しだけ勇者のことを考えたが、家には仕事は持ち込まない主義なのですぐに家族のことを考え始めた。
当直たちは馬車が見えなくなるまで敬礼をし続け、そのあとは勤務を続けた。
ボギンスの家は仕事場から近い。徒歩でも15分で着く。
ボギンスは、家に着くと通勤用の鞄を持ち、運転手に「ご苦労さん」とだけ言って、家の玄関を開ける。
「ただいま」
ドタドタドタと誰かが走ってくる音がする。
「お父さん!おかえりなさい!ッあわわわ…」
そういいながら、娘のマミルが玄関のお踊り場まで走ってきて、急ブレーキをかけて踊り場から落ちそうになっている。
「ああ、帰ったぞ。ははは、家の方がせわしいなぁ」
ボギンスはそういいながら踊り場でふらふらしているマミルを抱え上げ、肩に乗せる。マミルは、ボギンスの頭を掴み照れ笑いをしていた。
マミルを肩に乗せたまま玄関口で靴を脱いでいると、いつの間にか来ていたマミルの姉のマミラが靴ヘラを渡してくれた。
「お父さん、かかと踏んづけて抜いじゃあダメよ。くつ…磨いてもらっているんでしょう?」
次はボギンスが照れ笑いしながら、帰る前に履き替えた部下に毎日磨いてもらっている靴をヘラを使って脱いだ。
靴を脱いで踊り場に上がると、置いておいた鞄をマミラが持ってくれていた。そして、自然にマミラが空いている右手を握ってくれたので、そのままリビングに移動する。
リビングにつく前に、ボギンスの妻のユリアが廊下まで出迎えに来てくれていた。ユリアは、少しだけ足が悪いので、あまり早くは動き回れない。
「ボギンスさん、お帰りなさい、お仕事お疲れ様でした」
「ユリア、ただいま、ありがとう、それからいつも家事をありがとうな」
ボギンスはいつも通りに同じ言葉(本心)を言うと、ユリアはいつも少しだけ嬉しそうだ。
「…まあ、マミルは またすぐにお父さんに遊んでもらってるの?」
「はい…」
マミルはユリアに気づくと返事をしてからボギンスの肩から降りて、ボギンスの空いている左手を掴んでリビングに誘導し始めた。
マミラはお母さんにお父さんの鞄をお父さんの部屋に置いてくると言って2階に上がっていった。
「(やはり、最高だな…)」
勇者は、歩く、確実に進む。全てを殺し、壊し、そこには一寸の慈悲もなく、悲鳴を無視し、懇願を無視し、罵倒を無視して、全てを虚無に変えながら進む。
その後ろを小さな体で黙々と着いていく少女が一人…何も知らずに着いていく…
トテトテトテ…