第3話 勇者
人間、いや、生命は生まれた瞬間から自由だ。その意思は誰にも何にも縛られない。ただ、行動するたびに結果が伴うだけだ。
しかし、生まれながらにして神から使命を持たされた者もいる。
生まれながらにして生きるための目的を持たされた者をこの世界では…
勇者、勇ましい者と呼ぶ。
人間は生まれながらにして自由であるが、それは先が見えない不安との戦いを意味している。だから人間は、思うのである。感じるのである。考えるのである。そして、生まれながらにして生きる意味を持っている者の迷いがない行動に、憧れと羨望の眼差しを向け…
それと同時に、圧倒的な違いからくる恐怖を…抱くのである。
勇者は、使命に従い魔族を殴り、斬り、潰し、弾き、殺す。最初の町は「バギ」という町だった。
この町は人族(人間)との国境線の町であり、魔王城の精鋭も一部が駐屯していた。一部で、人族との交易も解禁されていて人族もビザを持ち滞在していて、平和で活気がある街であった。
しかし、全て殲滅された。まるで、抵抗の痕跡もなく、ダンジョン「バギ」に住む魔族と人族達はただ逃げ、泣き、叫び、震えることしかできなかった。
そして、勇者は誰もいなくなった街を後にする。神が示す、次の町へと…
勇者は生まれながらにして不自由である。何にも動じない体と心を持ち、世界を敵に回せるほどの力と知識を持っている。しかし、勇者は生まれながらにして不自由である。
勇者は一つの目的のため、神からの使命にその身を殉じる。そこに勇者の意思は介在しない。
なぜなら、勇者は生まれながらにして不自由であるのだから…
勇者はいつも一人だ。勇者に仲間はいらない。勇者に「いる」のは守りたい人だけ…
勇者は、また一つ魔族の町(ダンジョン)を壊した。勇者はその町で戦い、唄う。ここであった真実を唄う。
先ほどまで生きていたものが積み上げられる様を、築き上げられてきた物が壊れていく様を 少女に記録させるために…神からの使命のままに…
ボギンスは、焦っていた。勇者が破壊した町と町を結んだ線上、進路上に魔王城が捉えられており、その直線上には、自分の町(ダンジョン)もあったのだ。